核兵器
2006.9.6

原子力供給国グループ(NSG)の対インド原子力貿易規制撤廃に反対

内閣総理大臣 小泉純一郎殿

2006年9月6日

日本政府への要望書:

原子力供給国グループの対印原子力貿易規制撤廃に反対することを求める

我々は、以下のような理由で、原子力供給国グループ(NSG)の対印原子力貿易規制撤廃に日本政府が断固として反対するよう要請する:

  1. 核廃絶への国際社会の切なる願いを無視して、インドは核兵器を生産し、実験を行った。インドは、核兵器保有国が核兵器削減努力をしていない、NPT条約は不平等だと主張して、独自の道を歩んできた。しかし、世界の核拡散防止体制としては、NPT条約に代わるものはない。
  2. 米・印原子力協力協定案は、他の核開発を進める、もしくは疑惑のある国に危険なメッセージを送ることになりかねない。パキスタンはすでにインドと同様の取り扱いを要求している。北朝鮮、イラン、その他の国も、一度核兵器を手にしてしまえば、最終的に国際社会は自分たちの核兵器保有を受け入れてくれると結論するだろう。
  3. インドはNPTに加盟していない。そして、包括的核実験禁止条約(CTBT)にも署名していない。さらに、核分裂性物質生産のモラトリアムにも参加せず、核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)にも消極的である。他方、アメリカ政府はCTBTを批准せず、現在までFMCTに対しても消極的である。米国下院が可決した法案は、核分裂性物質生産のモラトリアムとFMCTの実現を米政策としているが、事実的な拘束力はない。日本政府はCTBTおよびFMCTの早期実現とNPTの普遍性を求めているが、米・印原子力協力協定案はこうした状況をなんら打開するものではない。
  4. 協定案によると、インドは幾つかの原子力施設への保障措置を受け入れることになる。しかし、原子力施設の多くは「軍用」と定められるため、こうした保障措置の範囲外に置かれ続けることとなるだろう。核拡散にとって重要な意味を持つ、インドの高速増殖炉やウラン濃縮施設、使用済み核燃料再処理施設は、保障措置の対象とはならない。そのためこうした施設で、核分裂性物質や核兵器の生産が可能となる。
  5. 現在インドでは兵器専用高濃縮ウラン及びプルトニウムの国内生産力は限られているが、もし、インドに核燃料が供給されることになれば、事実上核兵器能力を増強することになるだろう。
  6. 広島と長崎への原爆投下の惨状から、日本は核兵器の残酷・非人間的な行為に対してより深い洞察を持つこととなった。大きな苦しみからこの洞察を得た日本は、核拡散防止と核兵器廃絶の実現に向け努力するという特別な義務を負っている。核拡散防止と核廃絶の原則がこのように侮辱的に踏みにじられている時に、日本は無為に傍観者であってはならない。

背景

2006年7月26日、米国下院は米・印原子力協力協定案を現行の原子力貿易規制から除外する法案を可決した。上院でも今秋同様の法案を可決する見込みである。原子力協力協定発効前に、下院の法案は最終協定文を連邦議会に提出し承認を得る必要がある。

2005年7月18日、ブッシュ大統領とシン首相は共同声明を発表し、その中でブッシュ大統領は米国と国際社会は対印原子力貿易制限撤廃に努力すると約束した。下院での法案可決は、共同声明の実施に向けて大きく一歩前進したことを意味する。

インドは、その全原子力活動及び施設が国際原子力機関(IAEA)の包括的保障措置下にないため、対印原子力貿易には、1954年の米国原子力法の規制と原子力供給国グループの規則の双方からの免除が必要となる。下院立法により、様々な条件付きで、原子力法による規制が免除となる。条件の一つは、NSGがそのガイドラインに規定されているもの(核物質、原子力機器、原子力技術など)のインドへの供給許可を全会一致で決議しなければならないということである。これはNSGのインドに対する原子力貿易規制を撤廃することを意味する。

免除資格を得るために、法案はインドが一定の拡散防止対策を取ることを義務付けている。しかしながら、これらの対策は最低限の拡散防止基準を満たしていない。以下に示すように、合意案はむしろ拡散防止体制を大きく損なうだろうということが分かる。

12 人の原子力専門家は、IAEAのモハメッド・エルバラダイ事務局長への書簡でこの取引を次のように要約した:「...インドの核兵器備蓄増強に対して有効な抑制措置を確保することなく、あるいは、核拡散防止条約(NPT)1のI条とVI条に規定されている拡散防止義務と同等の義務受け入れをインドに義務付けることなく、インドに民生用原子力通商の特典を与えるこの取引は、拡散防止体制を損なう恐れがある。」(1)

インド・パキスタン各二人の原子力専門家は「ブッシュ・シン案により...インドは兵器物質の備蓄増強を継続できるだけではなく、場合によっては加速させる可能性がある。」(2)とした。「この取引により、インドが選択するなら、兵器級プルトニウム在庫の増強率を現在の一年間約7個分から約40-50個分の割合に引き上げることが可能になるだろう。」と結論付けた。インドが海外の核燃料を入手できるようになるので、協定案はインドが自国の限られた供給を自由に核兵器に使えるようにするものである。

法案は、インドが施設・物質・プログラムを民生用と軍事用に分離し、保障措置協定をIAEAと締結するための説得力のある計画を米国とIAEAに提出するよう求めている。しかしながら、重要原子力施設の多くは保障措置の対象外となるだろう。

現在あるものと建設中のものを合わせインドにある22基の原子炉の内、協定案では14基のみが保障措置対象となるとしている。しかしながら、インドに現在ある原子炉の内の4基と建設中の2基は外国製であり元々保障措置の適用を条件としていた。従って、保障措置はインド国産原子炉16基の内の50%、8基にしか適用されない。インドの軍事用プルトニウム生産炉と高速増殖炉は保障措置の対象とならない。濃縮ウランと再処理施設もまた保障措置の対象外である。結局のところ、インドは、将来建設する原子力施設のうちどれを民生用にして保障措置の対象とするか否かの決定権を保持することになる。

このような保障措置協定では、インドの核兵器備蓄増強を阻止することができないのは明白である。それどころか、インドは保障措置下にない核兵器物質の供給を拡大し続けることが可能になる。

米国下院の法案がインドに課している他の条件は、主観的な判断によるものであり、そのときどきの政治状況に基づくものであろう。拡散防止問題よりも、対テロかイラン・イラクあるいは中国といった米国の地政学的な目的のためにインドとの協力が優先される恐れがある。

原子力供給国グループの一員としての日本の影響力

ブッシュ・シン共同声明及び米国議会で検討されている法案は、NPTを軽率にも無視し、国際的な核拡散防止体制に大打撃を与える結果になるだろう。幸いにも、もっと賢明な国々が結果に影響力を及ぼす機会は残されている。

NSG はインドに対する輸出の可否を決議しなければならない。今のところ、日本は米国を支持してない。NSGの決議は全会一致によるため、日本の発言はNSGに強い影響力を持っている。日本が規制免除に反対する立場を明確にすれば、他の諸外国も勇気付けられ日本の後に続くだろう。

注:

  1. 2006年7月24日付米・印原子力取引に関するIAEA事務局長声明への専門家の挑戦「国際原子エネルギー機関モハメッド・エルバラダイ事務局長への公式書簡」
  2. 「南アジアにおける核分裂性物質と米・印原子力取引の影響:核分裂性物質に関する国際委員会への報告書草案」著者:Z.Mian, A.H.Nayyar, R. Rajaraman, M.V.Ramana (pdf) 2006年7月11日、4-5ページ

賛同団体:代表者