核兵器
2002.12〜

米国『大量破壊兵器と戦う国家戦略』

 米国は、2002年12月10日、『大量破壊兵器と戦う国家戦略』という6ページの文書を発表しました。大量破壊兵器を開発している国やテロ集団に対して先制攻撃をかける権利や、生物・化学兵器の使用に対して核兵器で報復する権利を保持することを明言したものです。非核保有国には核攻撃をかけないというNPTの無期限延長の際に再確認した約束を無視するものです。

 ワシントン・ポスト紙(2002年12月11日付)によると、『大量破壊兵器と戦う国家戦略』は、2002年5月に大統領が署名した機密文書の公開バージョンであり、機密文書の方は、「国家安全保障大統領命令(NSPD)17」と「国土安全保障大統領命令4」の両方を兼ねたものだということです。2002年1月8日に議会に提出された『核態勢の見直し(NPR)』は、国防省の文書なので、これが国の政策として確定されるかどうかが、当時注目されていました。実はすでにこの一部を反映した政策が5月にNSPD17として確定していたということです。[後に同文書を見せられたという「ワシントン・タイムズ紙(2003年1月31日)は、文書の日付を2002年9月14日と報じた。『アームズ・コントロール・トゥデー』誌(2003年1/2月号 原文・英語)も、政府筋の情報として、大統領が文書に署名したのは2002年9月と報じている。] 公表された文書からすると、2002年9月に発表された『米国国家安全保障戦略』も組み込んだものになっており、時系列的関係は複雑です。いずれにしても、この時期発表したのは、イラク攻撃を前提にして、イラクに警告を発するという意味合いが強いのでしょう。ホワイトハウスは一部の報道機関だけにブリーフィングをしたようで、そのテープ起こしも発表されていません。あるのは、11日にアリ・フライシャー報道官が行った簡単な説明だけです。従って、文書の性格の説明については、ワシントン・ポスト、ニューヨークタイムズ、ロイター、APなどの報道でしか知り得ません。公開された文書自体(pdf)は、ホワイトハウスのサイトにでていますhttp://www.whitehouse.gov/news/releases/2002/12/WMDStrategy.pdf。(一部を抜粋して翻訳したものを一番下に載せておきます。)

 『大量破壊兵器と戦う国家戦略』は、「拡散対抗」、「拡散防止強化」、大量破壊兵器が使われた場合の「影響管理」の三つの柱からなると、説明しています。そして、大量破壊兵器を持とうとするものや持っているものには、先制攻撃をかけるし、それを使った場合には、「圧倒的な軍事力で−−われわれのすべてのオプションの使用も含めて−−応じる権利を保持することを明確にし続ける。」と宣言しています。そして、このオプションには、核兵器の使用が含まれると政府高官が説明したとワシントン・ポスト紙は報じています。
 機密のバージョンの方には、新しい政策の中心的対象となる国として、イラン、シリア、北朝鮮、リビアが名指しされているとのことです。『核態勢の見直し』の中では、「北朝鮮、イラク、イラン、シリア、リビアは即時的、潜在的、予測されない事態に関わる可能性のある国々に入る」とされていましたが、この文書でなぜイラクが抜けているのかは不明です。

 米国は、NPTの文脈の中では、基本的には、核を持っていない国には、核攻撃をかけないと約束していますが、その一方で、米国は、生物兵器や化学兵器を使った相手には、核で報復する可能性があることをほのめかす方針をとってきています。たとえば、1997年11月に出された「大統領決定命令(PDD)60」(秘密文書)が、化学兵器や生物兵器の攻撃に対して核兵器を使用することを決めたものだと報じられました。国家安全保障会議のロバート・ベル国防政策軍備管理担当上級ディレクター(当時)は翌年2月18日、これを否定しました。しかし、ベルは、1996年4月11日、アフリカ非核地帯条約(ANWFZ)に関して、条約は「ANWFZの締約国による大量破壊兵器を使った攻撃に対して米国が使えるオプションに制限を加えるものではない」と主張しています。さらにクリントン政権が1994年に出した『核態勢の見直し』の説明の中で、ドイッチェ国防副長官(当時)は、化学兵器・生物兵器の「使用を考慮している国」は、米国の核戦力を「計算に入れなければならない」と述べています。また、ジェイムズ・ベーカー元国務長官は、回顧録のなかで「イラクによる化学兵器あるいは生物兵器の使用は戦術核兵器による報復をもたらす可能性があるとの印象を意図的に残した」と述べています。このとき、現大統領の父親のブッシュ大統領は核使用をしないことをすでに決めていました。

 ロバート・アインホーン元不拡散担当国務次官補は、グローバル・セキュリティー・ニューズワイヤーのインタビューで次のように述べています。大量破壊兵器による攻撃に核で報復するということについては、「われわれは、明示的にしてこなかった。この文書は、いかなるオプションも使うということによって、曖昧さの層を一枚はぐものだ。核兵器といわないで、明らかに核兵器のことを言っている。」と。
 前回の湾岸戦争の時も、核の使用しないことを決めておきながら、使用をほのめかしたということですから、今回の宣言が核の使用を直接意味するものではありません。また、放射能をばらまかないで施設だけ壊せるような便利なものはありません。いま議論されている地中貫通型は、広島に落とされた原爆の10倍以上の威力を持つものですが、たとえ小型にしても、放射能の拡散を防げないことを米国の「科学者連合(FAS)」の研究が明らかにしています。

 しかし、このように使用をほのめかすこと自体が、NPTの無期限延長の際に行った核保有国の約束に反するものですし、使用を宣言する政策をとると、それが戦争状態の中で使用に向けた圧力になりかねないという危険をはらんでいます。印パなどに与える影響も計り知れないものがあります。
 ここで忘れてはならないのは、日本政府も、日本が生物・化学兵器や大量の通常兵器で攻撃を受けた場合に米国が核で報復するオプションを維持し続けて欲しいという立場をとっていることです。(先制不使用問題背景説明へ

 

『大量破壊兵器と戦う国家戦略』抜粋

 「いくつかの国は−−テロを支援したことがあり、現在も支援し続けている数カ国も含め−−すでに大量破壊兵器を持っており、さらに大きな能力を求めている。強制と威嚇のための道具としてである。これらの国々にとっては、大量破壊兵器は、最後の手段ではなく、使用できる最善の兵器である。そしてそれは、通常兵器面でのわが国の優位を克服すること、われわれにとって決定的な重要性を持つ地域においてわれわれの友好国や同盟国に対する侵略にわれわれが対応するのを抑止することを意図したものである。さらに、テロ集団が、大量破壊兵器を入手することを目指している。彼らは、わが国や友好国及び同盟国の国民を大量に−−平気で、警告なく−−殺すことが目的だと明言している。」

 「効果的な阻止は、大量破壊兵器やその運搬手段と戦う米国の戦略の決定的に重要な部分をなす。大量破壊兵器の材料、技術、専門知識が敵対的な国家やテロ組織の手に渡るのを未然に防ぐために、われわれの軍部、情報収集、技術、法執行関係者の能力を高めなければならない。」

(*北朝鮮のミサイルを積んでイエメンに向かっていた船が米軍のスペイン軍の臨検を受けたと発表されたのも12月10日でした。)

 「今日の脅威は、過去のものと比べ、ずっと多様であり、予測の難しいものである。米国や、われわれの友好国及び同盟国に敵対的な国々は、自分達の目的を達成するためには高いリスクを冒す用意があることをすでに示しており、そして、そのために重要な道具として、大量破壊兵器やその運搬手段を獲得しようと積極的に追求している。従って、われわれには、新しい抑止の方法が必要である。潜在的な敵国に対して大量破壊兵器を求めたり、使ったりしないよう説得するためのあらゆる政治的道具とともに、強い宣言政策と効果的な軍事力が、現代の抑止態勢にとって欠くことのできない要素である。米国は、米国に対する、あるいは、海外の米軍、友好国及び同盟国に対する大量破壊兵器の使用に対しては、圧倒的な軍事力で−−われわれのすべてのオプションの使用も含めて−−応じる権利を保持することを明確にし続ける。
 大量破壊兵器の脅威に対するわれわれの全般的な抑止態勢は、わが国の通常兵器及び核兵器による対応及び防衛能力に加えて、効果的な情報収集、監視、阻止、及び、国内法執行能力によって強化される。このような総合的な能力は、敵の大量破壊兵器やミサイルの価値を下げることと、このような兵器の使用に対しては圧倒的な対応が予測されると示すこととの両方によって、抑止効果を高める。」

 「抑止は成功しないかもしれないこと、また、わが国の軍隊や民間人に対する大量破壊兵器の使用が壊滅的な結果をもたらしうるということを考えて、米軍及び適切な非軍事政府機関は大量破壊兵器を持った敵に対する防衛能力を持たなければならない−−それが適切な場合には先制措置の行使も含めて。このためには、敵の大量破壊兵器が使われる前に、大量破壊兵器及び関連施設を見つけて破壊する能力が必要である。」

 「大量破壊兵器関連施設を破壊する新しい能力を配備する努力を加速しなければならない。」